それが 利勝さまに届いたか わからない。
けれど利勝さまの口元から、フッと息が漏れたのが聞こえた。
背後からその口角が上がっているのが見えて、利勝さまが笑っているんだとわかった。
………見たいな。利勝さまの笑ったお顔。
今、どんなお顔で、どんなお気持ちで笑っていらっしゃるのですか……?
「お前さあ、さっきなんで、“屋敷に帰れない”って言ったんだ?」
いきなり話を振られて、私は動揺する。
……忘れてた。
私はこれから、まつにどう接していいのか、わからずにいたんだ。
「屋敷を飛び出すほど、嫌なことでもあったのか?」
「……私は……」
なんということだろう。私は。
まつの恋にひどい仕打ちをしていながら、
自分に芽生えた恋の甘さの心地よさに浸ってた。
………私、最低だ………。
「どうしたんだよ?」
利勝さまの声に、心の中で甘さがうずく。
けれど私は。
「……私は悪い娘なんです。だから屋敷を飛び出したんです……!」
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