私もつい、いつもの調子で口を尖らした。
「屋敷を飛び出す前に、手拭いを人に渡してしまったのです。ですから、顔を拭くものが何もないんです」
私がそう言うと、利勝さまもいつも通りに眉をひそめる。
懐からさっき使った紺色の手拭いを出して、私に差し出してくれた。
「俺もそれしかない。汚れてるけど、他にないから仕方ないだろ」
「……ありがとうございます」
お礼を述べて受け取る。
端が破けて、くしゃくしゃになった手拭い。
利勝さまが、私のために破ってくださった……。
「あの……これ、いただいてもよろしいですか?」
「そんなものでよければくれてやる」
そっぽを向いておっしゃる。
やっぱりいつもの利勝さま。
なんだかやっと安心してきて、いただいた手拭いでそっと目元を拭った。
「目だけじゃない。顔も相当なもんだ」
呆れたように指摘されて、あわてて顔も拭う。
汗くさかった。
私の手元にくる前に、利勝さまの汗を吸った手拭い。
………なんだか ドキドキする。
利勝さまの匂い。
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