「―――チビ!? おい、どうした!?」



いつもと違う、緊張したような鋭い声。



その声に ビクリと反応する。



………この声は。



視線をさまよわせ、声の主を見つけて、なぜか涙が溢れ出た。



利勝さま。



こんなみっともない姿。
見たらいちばん、呆れて馬鹿にしそうな人が。



道の向こうから、異変に気づいて、険しい顔で私のほうへ駆けてくる。



(いけない。来てはいけません)



利勝さまの後ろには、利勝さまの行動に驚くお連れの方がふたり。
おふたりとも、日新館のご学友だとすぐにわかる。



ダメです。話しかけてはダメです。

また掟を破らせてしまいます。

またご迷惑をかけてしまいます。



声が詰まって、なんとか首だけを振る。


それでも利勝さまにはわかってもらえなくて、涙で歪んだ視界のなか、足も止めずに走ってくる姿が映る。


利勝さまは私の前まで来ると、すぐ足の傷を認めて驚いて声をあげた。



「おい!血が出てるぞ!? 履物も履かずに、裸足で何やってるんだよ!?」