――――知らなかった。兄さまとまつが、そんな約束をしていたなんて。
私が林の家に来る前のことだから、当たり前なのだけど。
……母上を失った悲しみでいっぱいだった、幼い兄さまにとって、まつのその言葉と笑顔は、どれだけ温かく心に沁みたことだろう。
どれだけ 心を強くしたことだろう。
私が妬いてしまうほどのふたりの仲は、そんな約束があったから。
そんな幼いふたりの交わした小さな約束を思うと、胸が締めつけられる気がした。
まつの反応はうかがえない。
遠い昔を懐かしむ兄さまの穏やかな声が、障子の向こうから続いた。
「……あれから、七年も経ったんだな。俺はもう、母を想って泣くだけの幼子じゃない」
「……はい。八十治さまは本当に、ご立派に成長なされました……」
(まつの声。震えてる……?)
「今は、厳しくも優しいお継母上もいるし、そそっかしくて口うるさい妹もできた。
まつや皆のおかげで、俺はもう淋しくなくなった。
だからもう、俺のことは心配するな。
これからは自分の幸せを考えてほしい。
嫁ぎ先でもよく働き、主人を助けて達者で暮らしてくれよ」
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