結局 首を振って、



 「あ……なんでもないの!」



 ――――そう 言ってしまった。



 少し不思議そうな顔をして台所へ向かうまつの背中を見送りながら、私は心の中で勝手な解釈をした。


 まつはきっと、いきなりの縁談に戸惑っているんだわ。
 だからまだ実感が湧かなくて、あんな顔をするんだわ。

 だってお嫁に行くといえば、まだ見ぬダンナさまへの不安と期待を抱いて、育ててくれた両親に感謝しながら、嫁ぐその日を待ち侘びる……。

 そういうものでしょう?


 たとえ、意に添わないものだったとしても、縁談を決めたのはお父上さまでしょうし、まつをひどい家に嫁がせるはずはないもの。

 きっといい縁談のはず。


 私はなぜまつがあんなに悲しい顔をするのか、まったく理解できなかった。


 まつの気持ちを 知るまでは。