「奥方さま……本当に、私にはもったいないです!」
恥ずかしいからか、まつはあわてて言うのだけど、
「何を申すの、私はまつにとても感謝しているのよ。
まつは八十治さんとゆきの、姉とも言うべき存在ですもの。
それに肝煎の家に嫁ぐのだから、それ相応の準備をしないと。
母がわりの私がきちんと仕度を整えてやらないと、まつのお母上に申し訳が立たないわ」
母さまはきびきびした口調のわりに、笑顔でおっしゃる。
きっともう、娘を嫁に出す気分なのだわ。
けれど、そんな母さまとは裏腹になぜだかまつは悲しそうに目を伏せた。
(……まつ?)
どうしたのかしら?
お嫁に行くの、あまり嬉しくないみたい……。
「ありがとう、まつ。もういいわよ。さあ、さっそく始めましょうね」
母さまのハリキリようったら。
その姿に笑みが漏れてしまうけど。
私はちらりとまつを見る。
布地をはずされて、やっと解放されたまつは、小さく息を落として部屋を出るところだった。
「まつ!」
おめでとうと言いたくて、私はその背中に声をかける。
でも。
振り返るまつの笑顔がやっぱり淋しそうで。
私は、「おめでとう」という言葉を飲み込んだ。
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