私も兄さまのとなりにそっと腰掛ける。

 心配して兄さまの顔を見上げると、兄さまは私に向けて、その淋しそうな瞳をやさしく細めた。



 「兄さま……?どうなされたのですか……?何か、悲しいことでもありましたか……?」



 私の問いかけに、兄さまの瞳が、何かに気づいたように大きく瞬く。



 「悲しい?……まさか!そんなはずないだろう。こんなにめでたいのに」

 「え……おめでたい?」



 訳がわからず、ただ言葉を繰り返す私に、少しだけ笑みを返すと、兄さまはどこか遠くを見つめて、静かにつぶやいた。



 「まつが嫁に行くんだ。十日後には、この屋敷から出ていく」

 「まつが……!?」



 驚きはしたものの、私の胸は弾んだ。

 まつがお嫁さんになる。



 「それはおめでたいことですね!私!さっそくまつにお祝いを言わなくちゃ!」



 先程までのことをすっかり忘れてしまい、笑顔を見せて喜ぶ私に、兄さまは何か言いたげな瞳を静かに伏せた。