――――そして 月日は流れ、兄さまは 十の歳になると、藩校日新館へ入学することに相成りました。
早春の朔日。
入学の日は降雪の切れ間の、よく晴れた日のことでした。
「父上。継母上。私もやっと今日から、日新館へ通うことができます!
父上に恥じないよう勉学に励み、立派な武士となるために精進いたします!
それでは 行って参ります!」
朝食を終えたあと、麻裃の礼服に着替えた兄さまは、支度を終えるとおふたりの前に座り、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べたあと、玄関へと向かわれました。
「兄さま……!」
玄関から出て来られた兄さまを見送るために、私は近道して庭から猿戸を通って表に出る。
兄さまはさわやかな笑顔を見せて、
「ゆき。行ってくる」
足も止めずに 歩いてゆく。
「いってらっしゃいませ!兄さま!」
門の木戸をくぐり抜けると道を右に曲がり、兄さまのお姿はすぐ見えなくなりました。
私も兄さまの後を追って急いで門を出ると、迎えに参られた什長と共にお城へと続く道を歩く、ピンと背筋を伸ばした兄さまの後ろ姿を見つめる。
日新館の生徒としての、堂々とした兄さまの誇らしいお姿。
そのお姿が眩しくて、私は見えなくなるまで、兄さまの後ろ姿を見つめ続けました……。
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