「うわっ!姉上!」



 さき子さまに気づいて、利勝さまの目が、まずったとばかりに宙を泳ぐ。



 「聞こえたわよ、雄治!! 嫁の貰い手がないって、どういうことよ!?」



 詰め寄るさき子さま。利勝さまは腰を浮かせ、あわてた様子でさき子さまの後ろの障子へと回り込んだ。



 「姉上、雄治はこれから用があるので出かけてきます!母上にもそうお伝え下さい!」



 ジロリと睨むさき子さまから逃げ出すように、利勝さまは私に目もくれず、さっさと部屋を出ていってしまった。



 「まったくもう!いつまで経っても子供なんだから!」



 さき子さまの言葉に、なんだか笑ってしまった。



 さき子さまが持ってきてくださったのは、桜模様の絵ロウソク。

 私は驚いた。



 「こ、こんな高価なものをいただいてよろしいのですか!?」



 絵ロウソクは藩の特産品。
 一般庶民には、使うことのできない代物だ。



 「実はこっそり伯父さまからいただいたの。一対でいただいたから、おゆきちゃんに一本あげるわ」



 さき子さまはいたずらっぽく笑われる。内緒よ、と。



 「あ……ありがとうございます」



 受け取った絵ロウソクを、大切に懐にしまい込む。


 今年はくら子さまとさき子さま、それから母さまと一緒に桜見物へ出かけたんだったわ。



 「今年も城下の桜は見事だったわね!また来年も一緒に見に行きましょうね!」



 満面に花びらがほころんだような笑顔のさき子さまは、桜みたいにキレイ。

 年を経て、大人の女性の美しさが備わっている。


 そんなさき子さまは、私の憧れ。

 私も……そうなりたいな。