私の母 とき子は、お父さまと死に別れたあと、郭外(城の外濠の外)にある新町三番丁に住む、林 忠蔵さまの家に後妻として入りました。


そこには先妻みよさまとのお子、八十治(やそじ)あにさまがおられました。



私より ひとつ年上の兄さま。



ドキドキしながら、新しいお父上さま、兄さまの前で初めてご挨拶した時を、今でも覚えております。



少し恐そうな、威厳をたっぷりと持ったお父上さまと、ぷっくりした頬の優しそうなお顔の兄さま。



「ゆき と申します。よろしくお願いいたします」



おふたりの前でぺこんとお辞儀をすると、「なんとしっかりした子だろう」 と、お父上さまに褒められました。


お父上さまのとなりで笑って頷いて下さる兄さまを見て、

ああ 私、受け入れてもらえているんだ。
ここに来て 本当によかった。

そう 思いました。



このとき 私はまだ七つ、兄さまは八つでございました……。