長い間、私と黒髪は睨み合ってから、




チッ





くるりと後ろを向き、黒髪は去っていった。



そのとたん呪縛が解かれた。


「はぁぁぁぁぁ。」


長いため息とともにへなへなとその場に座り込んでしまった。

本当、怖かった。めっちゃ、怖かった…


「あ…あの…。大丈夫ですか?」


ふと、上の方から声がしたから振り返ってみると、


「あ、」

金髪くんでした。

そうだ、私この人を助けようとして…

さっきの黒髪の迫力がすごすぎて忘れてたわ…。



「ありがとう。助けてくれて」


そう言いながら、金髪くんはそっと手をさしのべてくれた。


「ううん、気にしないで。それより大丈夫?顔。」

「まぁ…ね。」


「そっ。私、二年F組の桜庭 碧。よろしくね。」


「二年?じゃあ、同い年だね。
俺、B組の白糸 翔。よろしく」


う…わぁ…。


よく見るとこの人すっごいきれいな顔…

すらっとした鼻に、青色の瞳。薄い唇に、透き通るように白い肌…

ハーフかな…?

本当にきれいな顔…

でも…


「大丈夫?」

私はそっと、白糸くんの頬にふれた。

頬には青いあざができてるし、唇からは血が出ている。

「保健室いこっか?」

「大丈夫だよ、このぐらい。」


「って、えええ?!大丈夫じゃないでしょっ!
せっかくきれいな顔してんだから、傷でも残したらどーすんの?!ほら!いくよ!」

白糸くんは驚いたような顔をして、そのあと優しい顔をした。


とくん



「碧ちゃんは優しいんだね。ありがとう。」



とくん




「もー、お世辞はいいからはやくいくよー!」

私は、あはは、と笑いながら先をせかした。

やばい…

なんか、はす恥ずかしい。

碧ちゃんって…。なんか、下の名前ちゃん付けって、恥ずかしいな…

あたしのキャラじゃないし…

「それに、俺のこときれいな顔、なんて言ってくれたの碧ちゃんがはじめてだよ。みんな、そんなこと俺に言わないし。」

クックッ、と喉を鳴らしながら笑う白糸くん。

はっ、と息をのむ私。

そっか!だから、さっき驚いた顔してたのか!



だよね…。いくらそう思ってるからって、面と向かって

きれいな顔してる

なんて、言う人いないよね…


だぁぁぁぁぁ。恥ずかしい…


体中の体温が一気にあがったのを自分でも感じた。
 





「う…うぬぼれなさんな!一般的にって意味!」


半分言い訳、半分照れ隠しで私はいった。

「どういう意味だよ。それ。」

また、クックッと喉を鳴らして笑いだす。

「しかも、うぬぼれなさんなって…。ごめん、もう無理」

白糸くんは堰を切ったように笑い出した。



「あはははは。ちょ、おなか痛い。はははっ」



とくん。



私はその笑顔を、不覚にもかっこいいと思ってしまって…


とくん。





とくん。





とくん。





うるさいっ。うるさい、うるさいうるさいうるさい!


とくん

とくん


「わ…笑うなぁぁ!!!!」


恥ずかしくなって思わず大きな声をだす。


「ごめんごめん。」

そういいながらも、白糸くんは笑い続けてる。




とくん

とくん

とくん




さっきから、うるさい。

そわそわする…

変だよ。変だよ。

とくん
とくん
とくん


顔が熱いよ…



「はやく保健室いこ!始業式始まっちゃうよ!」

多分、これも照れ隠し。

保健室に向かう時、少し早足だったのは赤かったであろう私の顔をあなたに見られないため…


多分あなたはそんなこと気づいていないだろうけど。