「お腹空いたでしょう。何か作るから待っていて」
「助かるよ。ありがとう」
 

元々綾香は、特別に料理が得意なわけではなかった。しかし、作る頻度が多くなる度にその腕を上げた。

時刻は午後八時を指している。夢人は少し残業をして帰宅した。綾香から連絡が入っていれば、もう少し早く帰ったのに、と思いながら、少し遅めの夕飯を待つ。
 

「簡単なオムレツになるけど、良い?」
「あぁ、何でも良いよ」
「もう少し待ってね」
 

綾香は、夢人の健康管理にも世話を焼く。夢人は、干渉されるのが別段嫌ではないので、そのままこの狭い部屋の家事を任せている。

綾香を恋人として、大事にしている。
気を遣わなくても良いから楽であるし、この流れのまま、結婚したって構わない。

そう思いながら、どうせ金を出して結婚や挙式などをするのなら、心底から恋い焦がれる間柄の方がやり甲斐があるかなと思う。
しかし、それはそれで贅沢だろうかとも考える。

結局夢人にしてみれば、まだ当分は結婚など気持ちの端くれに引っ掛かっている程度のものなのだ。