背徳性理論

 

「痛い、ユメ君」
「……」
「離して」
「……離したら逃げるだろう」


普段は温厚な夢人が、この時ばかりは叶美にも怖く思えたのか、叶美は黙り込んだ。

とりあえず叶美は、夢人の腕にすがるようにして抱き付いた。


「入って」


二人はアパートに到着し、夢人は叶美を部屋に上げると扉を内側から施錠した。

叶美は、以前この部屋に来ていた時のようにベッドへ腰掛けた。足を投げ出して、ぼんやりとした。

その傍らで、夢人はスーツを脱いで部屋着のスウェットに着替えている。


「……」
「叶美。お前がわざわざ恋人のいる男に好んで近付くのは、何か意味があるのか」
「意味、」
「綾香と別れると言った途端に、俺も要らなくなっただろう」


俯いて顔を上げない、うつろな表情の叶美を、夢人は覗き込むようにして見た。