小田夢人は、普通の印刷会社に勤める二十五歳の男だ。大学を卒業後、社会人となったので社会人三年目である。

夢人は歩いていた。
大学時代から続く一人暮らしの、住み慣れたアパートの一室へ向かう。
アパートへ到着すると、自分の部屋の前に人影があるのを見つけた。
 

「夢人、おかえりなさい」
「あぁ綾香か。来るなら連絡すれば良かったのに」
 

見知った顔もそのはずで、三条綾香は夢人の恋人だった。中学、高校とが同じで、夢人が大学二年の頃より交際が始まっている。
人間としては十三年目、恋人としては六年目という、長い付き合いを続けている。

夢人はスーツのポケットより部屋の鍵を取り出し、綾香を部屋に入れた。
綾香は買い物をしてきたらしい。最近物価上昇が問題である、野菜達が袋から顔を出している。