義男は香奈のアパートに転がりこんでいた。 香奈は、仕事が忙しくて、義男の日頃の行動まで気にかける余裕すらなかった。
香奈からすれば、義男との二人の時間は、主に職場での人間関係の話題で持ちきりであった。 義男は、香奈に世話になっている手前、いつも適当に話しを聞き、相槌を打ってその場しのぎの会話しかしなかった。 でも不思議なもので、会ったこともない、香奈の同僚がなぜか身近にかんじられた。
そんな香奈もたまに、義男に向かって真剣な眼差しで話しかけることがあった。
もちろん義男自身の将来の展望の話しだ。 義男はその瞬間が、嫌で嫌で仕方なかった。 香奈とはもう付き合って、三年になる。 義男がアルバイトで、ファミレスで働いた時の先輩でもあった。
最初から先輩づらして、義男にとっては煙たい存在だった。
しかし香奈が看護学校の実習で忙しくなり、アルバイトを辞める事が決まった時、義男は香奈に告白した。
駄目もとでの告白だった。
なぜか煙たい存在だった香奈を好きになったのか義男自身はよくわからずにいた。
一つだけ確かな事は、香奈のハキハキした痛快な性格に惹かれた事だ。 あっさり香奈は義男の告白を受諾した。 それから今までの付き合いに至っている。 そうだ。話しの途中だった。
義男はとにかく将来の展望までわからなかった。
香奈は悲しい顔をした。
義男はいてもたってもいられなくなり、いかにして自分が努力しているかをアピールする術を学んでいた。
義男は求人情報雑誌を取り出した。もちろん香奈に見えるように。 すると香奈はいつも立ち上がり、日頃は絶対入れてくれないコーヒを作って持ってきてくれるのだ。
義男は何気に、今アルバイトをしている運送屋を辞め、定職に就くことを雑誌を見ながらアピールした。