―…ご主人さま もうどこにもいかないで…―。


ご主人さまは 毎日「外」に続く扉を開けて、「外」へと出ていく。


ぼくがご主人さまと 幸せな時間を過ごせるのは

ご主人さまがお家に居る夜中だけ。


ぼくには眩しい朝がくると、

ご主人さまはきれいなお洋服を着て、

きれいにお化粧をして、

きれいな靴を履いて 「外」への扉を開ける。


その扉を開けない日はめったにないけど、
開ける日は必ず

ぼくに「いってきます」って 声をかけてくれる。

だけど、

ぼくはやっぱり行ってほしくなくて、

《行かないで》

って
生まれつき大きい声を出せない喉で

最大限の声で叫ぶんだ。