街灯の下、少し黙って地面を見つめ
目元に微かに影を作ったユウキは
ふっと軽く笑った後顔をあげた。

まったく何をやっても絵になる男だ。


「そうだな。
お前の言った事あたってるよ。
今回のは事務所が出した交換条件でさ」

「交換条件?」

「そう、どうしてもやりたい事があってさ。
それを叶えるために仕方なく
事務所の指示にしたがったんだよ。
“ソロアルバム800売ったら
考えてもいいって”

っても意外に楽しかったよ。
スゲーいい経験にもなった」


800って800万枚か。

普通なら無謀な条件だけど
こいつの場合はそれに当て嵌まらないのに
事務所も考えが甘かったとしか
言いようがない。

だって今週の時点で売り上げは約500万枚。
そして今もまだ売れ続けてる。

その条件に上げた数字を記録するのは
もはや時間の問題だ。

でもそこまでして叶えたいことって……


「もしかして結婚、とか?」


5歳年上のこの男に恐る恐る尋ねると
今度は声を上げて笑った。


「ははッ!んなわけねーだろ!
結婚なんか事務所関係なく
したいと思った時にするよ。

俺が出したのは
仕事上のちょっとした希望だよ。
お前が心配してるような事じゃない」

「ふーん」


正直かなりホッとした自分を感じつつ
平常心を保った演技をしながら
そう返事をすると

ユウキはちょうど来た
空車のタクシーを捕まえて
俺に「じゃまたな」と言った後
後部座席に乗り込んだ。