急いで彼女の背中を追い掛けると
ユニットバスの冷たいタイルの床に
前屈みで座り込むアキの姿が見えて

俺は無言で彼女の後ろに座ると
そっとその背中に触れた。


「ごめ……リョウ」

「いーから気にすんな。
ほら吐いて楽になるなら
我慢しないで吐いちまえよ」

「……ん」


――それからアキは言葉通り
胃の中空っぽになるまで吐きまくって
ついには胃液しか吐くものが無くなって

生理現象で涙を滲ませるアキの横顔を見て
俺は耐え切れなくなって
タイルに向かって俯き
血が滲むぐらい強く唇を噛んだ。


なんでこんなになるまで……

それにさっきの
Deep Endの生のステージについての話。


会場の大きさの差は様々だけど
あいつら相当数
アメリカでツアーしてたはずなのに

ケイの妹であるアキが
一度も見たことがないなんて……
何でそんな事が起こりえるんだ?


――俺がどんなに必死で考えても
想っても
その答えは相変わらずわからなくて

アキの震える身体が
痛くてきつくて
たまらなくなって

泣き出したいような気持ちを
ごまかす為に

俺はただ何度も何度も
……それしか出来ることが
見つからなくて
アキの細い背中を撫で続けた。