――真っ黒いフロアの上を
泳ぐようにライトが揺れ

ギュイィィーンと
ギターの歪みがスピーカーから響き渡る。


9割程埋まったフロアに目を向けると
こちらに返される彼らの思考は多種多様。


さっさと次のバンドの登場を願う奴ら

少しだけ俺らに興味を持って
胸をざわつかせている奴ら

試しに聴いてみようか的に
腕を組でステージと対峙する奴ら

胡散臭いものを見る眼差しを
あからさまにぶつけてくる奴ら

アキのルックスに
すでに食いついている奴ら。


多少の予測はしてたけど
今まで感じたことがない
その独特の雰囲気に
ゾクゾクと全身に鳥肌が立つ。


足元から脳天まで
血液が激しく循環を繰り返し、

さっきステージ横で円陣を組み
気合い入れの為にぶつけ合った拳が
今更ながら痺れてきた。


どんなステージにも
魔物が住んでいると言うけれど
そいつは今夜
俺らにどんな審判を下すのか?


――“そろそろだろ?”
という意味を込めて
チラリと背後に視線をむけると

しっかりと頷いたケンゴがから
カウントが返され

俺は導かれるまま
力強くベースの弦をはじいた。


“ドワッ”と擬音化するべきか
密閉空間で繰り返し行われる化学反応。


それぞれの音が爆発を繰り返し
迫り来るようにフレーズが重なる
やや長めのイントロで構成された
俺らの東京ライブファーストソング。


ケンゴのバスドラの重い音が
背後から叩き潰すさんばかりに
襲いかかってくる。


黒のショート丈のジャケットに
ダメージ加工されたデニムスカート
ダークブラウンのロングブーツ。

そして髪をハーフアップにしたアキが
マイクスタンドに手をかけて
顔を上げた時

フロア右奥から
野次のような歓声が上がった。


「ヒューー!!
ボーカルの女スゲーかわいい。

下らねぇ歌なんか歌わなくていいから
そのスカートの中身
俺らに見せてくれねぇ?

その方がよっぽど
楽しめるんだけど〜」