「リョウもさっきあいつらが
サウンドチェックしてんの見たやろ?

“シンならライブ
ギリギリになんないと来ない”
とかゆうて、
二人しかリハーサルせーへん。

シンって奴調子乗りすぎや。
あーゆーやり方俺は好かん」


なるほどな。

音楽の事に関しちゃ
やたらと潔癖になるコイツだから
そう考えるのが常識だろう。

まぁはっきり言って
俺もお前と同じ気持ちだけど……


「でも、違う見方すると
他の二人になら
全て任しても大丈夫って
信用してんじゃねーの?

実際にThe Cloggerの二人の印象も
職人っつーか精密機械みたいに
淡々と仕事こなしてたし。
技術は相当高いと思った。
……プロでやんのも納得ってくらい」

「あ?プロやと?」


ピクリと横の男の眉が動き
ビリピリとした緊張感が身体全体を包む。


「そう、さっき山崎さんに聞いたんだ。
あいつらもうすぐプロでやるらしいぜ。

今の俺らじゃ
そーゆー文句言ったところで
負け犬の遠吠えぐらいにしか
聞こえねーだろうな」

「…………」


無言で何が考え込むケンゴ。


ステージからは
ギターのノイズの合間に
楽しそうな笑い声が届けられて

俺ら二人から発生した空気との差が
面白いぐらいに対極となる。


10秒ほどの沈黙の後
ケンゴが低い声で発した。


「……面白いやんけ。
何やめっちゃ面白くなってきた。

ここまで来たかいがあったわ。
……ほんま楽しみや」


淡々とした口ぶりながらも
ケンゴの黒い瞳の中に
激しい炎が見えた気がして

俺は口元が勝手ににやけてきたのを
隠すことが出来なかった。


――超同感だよ、ケンゴ。

そんな目をしたお前が出す音が
俺は楽しみで仕方がない。