悔しさに内蔵が軋む。

シンは長く伸びた前髪をクシャリと掻き
その奥から鋭い視線を俺らに向けた。

まるで揺るがない強さでもって。


「これは俺のけじめだから
やっぱり自分の力で
片付けないとダメなんだ。

……だから“1年”時間欲しい。
1年で絶対なんとかするから
もしその時もお前らが
今と同じ気持ちでいてくれたなら改めて
お前らのバンドに入れてほしいんだ。

勝手なこと言ってるってわかってるけど
これだけは絶対に譲れない。
……ホントにゴメン」


また反論したくなったけど
俺らに頭を下げたシンの姿に
もう何も言えなくなった。


こんなにも強い覚悟を見せられて
それにもし俺が逆の立場だったら
シンの気持ちも
痛いくらいにわかるから。


――でも1年なんて長い期限
コイツを手放すとか絶対にしたくない。


息苦しさに血流が止まるぐらい
拳をきつく握ったら
バンッ!!っととてつもない勢いで
楽屋のドアが開いた。

弾かれたように振り向いた俺の視界に
燃えさかる炎が見える。


「駄目!そんなの絶対認めない。
私1年も待てないからね!」

「アキ……」


扉の方から俺らの方に歩いてくるアキ。

多分女子トイレで着替えてたんだろう。
黒地のワンピース姿で俺らを睨みつけて。


「そんな大事な話
人のいないとこで勝手にしないでよ。

しかもそんなどうしようもない話
もし許可してたら
今頃ぶん殴ってたとこだかんね」


こんなにも
キレたこいつを見るのは珍しい。

でもシンの覚悟だって相当だ。
そんなアキに向かって
強い口調で訴えかける。


「駄目っつっても無理なんだよ。
認めてくれないなら
お前らのバンド入ること事態
諦めなきゃなんなくなる」

「何言ってんの?
そんなの出来ないくせに。

あんたさっき凄く気持ちよさそうに
ギター弾いてたじゃん!
忘れるなんて不可能でしょ?
あの感覚」

「ッ!!」


図星をつかれたように
ハッと息を飲むシン。

でもお互い引けずに睨みあって。