まさかケンゴまで
そんな事思ってたなんて――。


手の中の薄っぺらい紙の文字を
もう一度確認すると
日付けは来週の木曜。
場所は新宿のライブハウス。

俺らのライブの二日前だ――。


全てが目に見えない何かに
導かれてるような……
そんな不思議な感覚がする。


きっとこの日がシンと接触する
最後のチャンスになるだろう。

そう思ったら沸き上がる緊張感。

あの一癖も二癖もある男を
勧誘なんか出来るのかって。


「なぁ、ケンゴ」

「何や」

「このチケット一枚しかない訳?」

「は?当たり前やろ!
これ一枚手に入れるのに
どんだけ苦労したと思ってんねん。

もしや心細いから
アキと一緒に行きたいとか?
何で俺がお前らの
デートの世話までせなあかんねん。
一回マジでシバくで!」

「いや嘘嘘、冗談。
ちょっと聞いてみただけ」


遠慮のかけらもない殺意を向けられて
慌てて弁解する俺。

つかマジで鋭いこの男。
確実寿命縮まったし。


そんな俺らのやり取りを
笑いを堪えて眺めてた他二人。

するとカズマが
ハタと何かに気付いたように
慌てた声を上げた。


「ってかさ、シンのバンドって
メジャーデビュー決まってなかったけ?

しかもアイツ確かにギタリストだけど
ボーカリストでもあるんだけど。
それなのに勧誘なんか出来る訳?」

「せやで、だから俺も諦めて……」


と本音を漏らすケンゴ。


――この質問はもちろん想定内だ。


アキは何も言わずジッと俺を見てて
そんな三人に向かって
俺は強い口調で言った。


超ありえねー
超強気なこの提案を。


「アイツにはとりあえず捨ててもらう。
あのバンドとメジャーデビュー、
それに下らない野望と歌う事も。

ギターを弾く事以外、
シンには“全部”捨ててもらう」