「リョウ」

「ん、何?」


さっきまでとまるで違う声のトーンに
少し心がざわついた。


「昨日は……ありがとね。
考えたら私、ちゃんとお礼
言ってなかった気がするから」


――アキ。


ここから見えるのは後ろ姿だけで
そのもどかしさに胸の前で組んだ拳を
更にキツク握りしめた。


「つか俺が余計
ややこしくした気がするんだけど。
まぁでも結果オーライだろ?
東京ライブが決まったんだから。

こーゆーの何でいうんだっけ?
転んでももただで起きない?」

「ふふ、うん、まさしくそれだよね。
リョウだけじゃなくてケンゴもカズマも
全然へこたれない。
……だから余計救われた。
本当ありがと」


真面目に礼を言われるのに慣れてなくて
段々むず痒い気持ちになってくる。

そんな動揺のせいか


「だって俺約束したからさ」

「約束?」


……あっヤバイ。
今余計な事言ったかも。


でも今更ごまかせない雰囲気で
仕方なく口を開いた。


「ほら、前に此処で
バンドにお前を勧誘する時言っただろ
“色んな物からお前の事守る”ってさ。

ただ俺はその約束を実行しただけだよ。
男に二言はない……っつーだろ?
てかあんな昔の事忘れたよな。
悪い、変な事言って」


最後は笑って茶化しながらも
恥ずかしさに顔を背ける。


あんなクサイ台詞やシチュエーション
思い出したくないし思い出させたくない
出来れば抹殺したい過去だ。


……でもあの時の気持ちに嘘はないって
今でも確実に誓えるけど。