呆然としたままその場に立ちつくし
震える指を動かして固く拳を握る。


どういう事だ?
何でアイツ急にやめたんだ?
――それにあんなに驚いた顔して。


しばらくそのまま考えて
ハッと気付くと
店中の人間の視線が俺の方に集中。


だって目の前に広がってるのは
コーヒーやらが零れた
ぐちゃぐちゃなテーブルに
ぶっ倒れたままの椅子。

ヤバッ……って
さっきと違う種類の焦りが
全身を駆け抜けた。


それでも全てをごまかす為に
ヘラリと笑いを返す気分にもなれず

厳しい顔を変えることもしないで
右手で鞄と伝票を掴み会計に向かう。


――さっきシンから聞いた話の全てを
アキに話すべきか
それとも隠した方がいいのか。

アイツに会えば
晴れると思ってた胸のモヤモヤが
更に混沌とした闇に
引きずり込まれていく。


――それにしたって
無茶苦茶だろ、あの男。

しかも馬鹿野郎だ、絶対。


全てにおいて分かり合えなかった
さっきまでの会話を思い出しながら

誰かアイツの
取り扱い説明書作ってくれとか
不可能な事を願ったり。


唯一確信を持って言えるのは
あの店には二度と行けねーなって
ただそれだけだ。


――イラついて仕方がない。


ったく左手がいてーよ、畜生!!