冗談だろ?って言いかけて
左手の痛みに顔をしかめた。


服に絡み付いた指が引っ掛かって
シンが力を込めるままに
有り得ない方向に指が曲げられて。


クソッ!!いってぇ!


多分コイツはやるっつったらやる。
きっと顔色一つ変えず
人の指を握り潰せる奴だ。


抵抗すれば簡単に逃れられるだろうけど
馬鹿みたいな意地が邪魔をして
その腕を引く抜く事さえ出来ない。

シンはそんな俺の感情を
全部分かりきった上でやってるから
ますますタチが悪い。


ギリギリと指の骨が軋む音が
腕の神経を通じて脳まで運ばれて
この先に起こる事を想像して
勝手に背中に汗が伝っていく。


出来るなら綺麗に骨折ってくれとか
元通りに動くまで
どれぐらいかかるのかなとか

縁起でもない事を考えてたら
更にもう一段階
痛みのレベルが引き上げられて
ついつい声が出た。


「痛ッ!!」

「本気で馬鹿だなお前。
どうせならもう二度と
ベースが弾けないぐらい
やってやろうか?」


……ヤバイ

ヤバイ
ヤバイ


200%ヤバイ。


一生ベース弾けなくなるとか
やっぱりそれだけは勘弁しろ。


もう痛みがマックスになって
腕に力を込め口を開きかけたその時――

俺の左手に視線を向けたシンの瞳が
大きく見開かれたのがわかった。


と同時に奴の手の力がフッと抜けて
自然と左腕が自分の元に戻される。


痺れと痛みのせいで
まだ指が動かせないながらも
訳もわからずシンの顔を見ると

彼はまだ驚きの表情のまま
微動だにせずに俺の左腕を凝視して。


「シン?」

「お前……
何でお前がそれを」

「え?」


暑くもないのに首筋をつたう汗。


――“それ?”


意味がわからず眉を潜めた俺に
いらついたように舌打ちを返してくる。


ビリビリとした空気を纏ったシンは
不機嫌そうに濡れた髪を掻き
「クソッ」って低く呟いたと同時に
グルリと俺に背中を向けた。


「おいシン!待てよ!」


って呼びかけた声もシカトして
そのまま店から出ていく後ろ姿。