「リョウ、お前今何考えてた?」


背後から、そう静かに響いてくる声。


――シンッと静まり返った密室内。

スタジオにいるのに
誰ひとり音を出してないのは

今ケンゴが怒りのままに
一発轟音を鳴らし
俺らの演奏を止めたからだ。


――その余韻で
鼓膜がまだ悲鳴をあげてて

マイクスタンドの前に立つアキは
青ざめた顔をして俺ら二人を見つめてた。


一方ケンゴはドラムセットに座り
スティックを固く握ったまま
また俺を睨み付けて言った。


「だからお前
そんな腑抜けた音出して
何考えてたって聞いてんねん!」


その怒りが振動となって
辺りの空気をビリビリと震わせてる。


遠慮なくぶつけられる負の感情。

こんなに怒ったコイツを見るのは
初めての経験だ。


俺の対角線上には
ゆるパーマの人の良さそうな男が
意味わかんないって顔で
呆然と立ってて。


……あぁそうだ。
“彼”が
ケンゴが前に言ってたギタリスト。

試しに合わせてみようって
話になってたのが“今”、この瞬間だ。


……それなのに今、俺何考えてた?


「――俺前に言ったよな?
あいつにあんまり振り回されんなって。
俺らは今それどころないんやから
自分らの事に集中しようやって。

今がその時ちゃうんか!?」


俺を追い詰めるように
そう言葉をぶつけてくる。

――全部コイツの言う通りだ。

こんな大事な時なのに
ウジウジと考え込んで

自分がどんな音を出してたのかも
彼がどんなギターの音色をしてのかも
まるっきり頭に入ってなかった。


弁解の余地もない。
最低だ、俺。


自分が許せなくて
血が滲むほど唇を噛み締めると

怒り過ぎて逆に呆れたのか
ケンゴは投げやり気味に軽く息をはいた。


「もう止めや止め。
これ以上やっても無駄なんやから
もう終りにするわ。
こんなんアホらしくてやってられへん」

「え?」


声を上げた俺に構う事なく
ドラムセットから立ち上がって
片付けを始めたケンゴ。