一気にテンションが上がり
食いつくようにケンゴに身体を向き直すと
背後でユリが立ち上がる気配がした。


「――なんか立て込んだ話っぽいから
私もう行くね」

「え――」

「おお、そうか。
悪いな、ユリ」


俺の言葉に重なるように
ケンゴはユリにそう答えてて
何故かお互い
ニッコリと微笑みあってる。

……ってもケンゴの方は
内心何を思ってるのか
分かったもんじゃねーけど。


「ううん、全然。
じゃあまたね、リョウ」

「あぁ」


そうしてケンゴと並んで
ユリの背中を見送る俺。


助かった……と安堵してるのは
もちろんさっきの自分の行動を
後悔してるからで。


その姿が完璧校舎の中に消えた時
ケンゴはまだ前を見つめたまま
黒いオーラを復活させた。


「このアホ」


――本当


「ボケ」


――その通り。


「カス」


――返す言葉も


「死ねや」


――ありません。


やっぱり全部ばれてたんだって
自己嫌悪に陥る俺に
とどめの一撃が下る。


「アキに見られなくて
ほんまによかったなぁ」


――ってソレ、180%同意っす!!


余程俺がしょぼくれた顔をしてたのか
ケンゴは呆れたような表情で
なおも正論をぶちかます。


「雰囲気に流されるとか
ホンマ危なっかしいわ。
もししとったら
お前めちゃめちゃ後悔したやろ」

「…………」


沈黙を返したのはもちろん肯定の意味で。


マジで俺バカだ。
んっとに何やってんだよ。

コイツが止めてくれなかったら
もしかしたらいくとこまでいってたかも。


感謝してもしきれないぐらいで
命拾いした気分だ。


だから隣の男にぼそりと言った
正真正銘、素直な言葉。


「ありがとな、ケンゴ
……スゲー助かった」

「わかっとるわ
このボケッ!」


ハァと幸せを逃すため息。

――今ならどんな辛辣な批判も
むしろ進んで受け入れたい気分だ。