――お互いの唇が触れる寸前


ズザッ!!


って音と共に後頭部に激しい衝撃が走り
冷たい物が背中に滑り落ちた。


「冷ってっ!」


思わず立ち上がりながら叫び
頭と首のあたりを手で拭う。


なんだコレ?
氷?
じゃなくて雪?


掌に付いた小さな雪の粒は
みるみる体温で水滴になって

髪に付いた水滴をはらい
何処から来たのかと後ろを振り向いた。


「あ」

「ケンゴ!」


まだベンチに座った状態で
そう名前を零したのはユリ。


まさか今のって……


俺の遥か後方に佇み
二人分の注目を浴びたケンゴは
渡り廊下からそのまま
こっちに向かって歩いて来ようとしてて。

少し日影になった奴の足元には
溶けきれない雪の小山。


もしかしなくても
さっき俺に雪玉を投げたのは
この男に間違いない。


……つかヤベエ。


近づくケンゴの背中には
暗黒の黒いオーラ。


どっから見てた?
もしかして最初から最後まで?


まるで二股がばれた時みたいに
妙な焦りが込み上げて来るのは
いったいなぜだろうか。


「ケン…ゴ?」


弁解するように名前を呼んだ俺に
刺すような視線を返して
近づいて来るケンゴ。

そうしてベンチのところまでやってきて
腕を組んだ体制で
俺ら二人を交互で見た後

――厳しい表情のまま
俺に向かって口を開いた。

怒鳴られるか
最悪殴られる予想をしてたけど……


「リョウお前こんなとこにおったんか。
昼休み終わっても教室帰ってけえへんし
携帯連絡入れてもつながらへんし
めっちゃ探したんやで」

「あ、あぁ、悪い
気がつかなかった。
どうした?何か急用?」


ってどうして俺
こんなに声が上擦ってるんだ。


「あんな、例のギタリスト見つかったで。
前に対バンした奴の知り合いが
最近バンド抜けたらしくて
どうや?って連絡が来て」

「え?マジで?」

「だから早速来週
音合わせてみようって
話になったんやけど平気か?」

「もちろん平気に決まってんじゃん!
うっわー!!それってどんな奴?」