――何だよ。


そんな風に言われたら
断ったりなんか出来ねーじゃん。


『約束』だとか口では言ってるけど
アキがユウキを必要としてる事なんか
わかりすぎるぐらいわかりきってる。

いつかの未来の話じゃなく
今、この現在に。


でもやっぱ俺だって
そんな簡単に諦めらんねーからさ。

俺にだってアイツが必要なんだ。
ユウキにだってきっと負けないくらい。


……なのにそんな言い方するなんて


「――んなのズリーよ、お前」


どうするのが正解だって
示されてるみたいで

そんな言葉を使って
今俺にアキの気持ちを実感させんなよ。


素直に今の苛立ちをぶつけると
ケンはスゲー痛そうに


「だな、ごめん。
それもわかってて
わざとこんな言い方した。

でもさっきお前が言った通り
お前が俺の頼みをきく義理なんかねーし
それ握り潰したところで
誰も何も言いやしないよ。
――俺だってさ」


そう言って目を伏せた先にある
俺の右手の中のチケット。

たった数枚の紙なのに
今は鉛みたいに重く感じで
微かに指が震えた。


だったら今言われた通り
こいつの目の前で
握り潰してやろうかと思ったけど

――やっぱり、出来なくて。


俺がどうするか全部わかってるのか
それ以上は何も言及せず

「じゃあまたな」とだけ呟いて
空車のタクシーに乗り込むケン。


自分が仕向けたくせに
俺以上に辛そうな顔をしてた
その顔を見ちまったからか

このやりようのない気持ちの
矛先が見つからなくて
俺はただ無言で
車を見送ることしか出来なかった。