これは別にこいつのふてぶてしい性格に
絶句してる訳じゃない。


そんなのも軽く通り越した今現在、
会話は右から左

他にやることが思い付かなくて
テーブルの水の入ったグラスの水滴が
下に垂れていくのを目で追ってたら

オレンジ頭の隣に座ったケンゴが
テーブルの下から
俺の足をガツンと蹴っ飛ばしてきた。


「いって!」

「リョウ、どないする?
この後合わすか音、試しに」


表面上では何事もなかったかのように
穏やかに話すケンゴ。


チクショウ、いてーな足。


少しは加減しろって文句を
仕方なく呑み込んで
俺はにっこりとキツネ男にほほ笑んだ。


「今日はスタジオ予約してねーから
それは今度な。
……また改めて、連絡するわ」


――――――

明らかに不機嫌そうに
分厚いブーツの底を激しく鳴らしながら
ファミレスのドアを開けて出て行くそいつ。


その後ろ姿を最後まで見送ることもなく
俺は身体を崩しテーブルに肘をついた。


「あー、疲れた。
色々我慢したら腹減った。
アキメニュー取って」

「ん、ってか私も頼む。
一緒に見ようよ」

「おう」


そうしてメニューを眺めながら
あれこれ言い合ってたら
ケンゴはソファーに
どかりと座り直しながら言った。


「今ので何人目やったっけ?
5?6?
やっぱりろくな奴いーひんな」

「だな。
もうこれ以上はやめようぜ。
多分やっても時間の無駄だろ。
しかもそのうち確実に血を見る事になるし
キレたお前が手をだして」

「ようわかってるやん、お前。
今だってあいつの両耳のピアス
何回引きちぎったろうと思ったか
何やねんあの男」

「くく、それはそれで見たかったかも」


なんて物騒な話をしてる横で
マイペースにも
オーダーの呼び出しボタンを押したアキは


「じゃあどーすんの新メンバー。
新しいギターがいない事には
ライブもレコーディングも
何も出来ないじゃん」

「えーっと」


それは最もだと揃って顔をしかめる俺ら。

でもさ、マジで
やるだけ無駄だって感じだったんだよ、
ここ2、3日。