アキはその場で固まったまま
少し睨むようにして口を開く。


『――いつからいたの?』

「えーっと最初から?」

『嘘!もー信じらんない。
それならそうって早く言ってよ』

「気付かないお前が悪い」


なんて、かなり自分本位な言い訳をして
携帯の通話を切った。


そうして目の前に到着した俺を見上げて
凄く複雑な顔をするアキ。

右手にはさっき彼女が言った通り
缶の紅茶が握りしめられてた。


――何故か無言で見つめ合う俺ら。


辺りの街灯が頭上でアキを照らし
灰色のガラス玉みたいな瞳を
キラキラと輝かせ

その瞳を真っすぐに見つめて
俺は少し口元を上げた。


「なあ、アキ
この横断歩道の景色見てたら
俺いいこと思い付いたんだけど」

「いいこと?」


キョトンと瞬きをする彼女に
勿体振ったように笑みを見せる。


回りの寒さなんかまるで感じないぐらい
俺の中ではスッゲー興奮する提案。

……じゃなくてすでに決定事項。


「だからー
どうせ今から新しいライブハウス探すなら
思い切って遠出でもしてみようぜ」

「遠……出」

「そうそう、例えば
“東京”とか」

「は!?」


案の定大声を上げるアキ。


「ほら朝のニュースとかで
たまに見んじゃん?
渋谷駅前のスクランブル交差点。

さっきの人垣見てピンときたんだよね。
ああ、せっかく冬休みだし
どうせなら行っちまうかって。

渋谷とか新宿とか下北とか?
ライブハウスの数だって
こっちより断然多いし
どっかしら空いてんだろ」

「…………」


まだ俺の話を
理解しきれてない様子のアキに
俺は少し強めの口調で繰り返した。


「んな驚くなよ
別にたいした事じゃないだろ。
行こうぜ、アキ。

……つーか行くぞ、東京」