「そーだ俺ケンゴらと昼部室で会うって
約束してたんだった」


もちろん理由はカズマの件。
そして松さんのバンドの件。


独り言のように叫びながら
椅子を引き倒す勢いで立ち上がると
俺を見上げたユリが
いつも通りの隙のない顔で
ニッコリと微笑んだ。


「じゃあ途中まで一緒に行こうよ。
私も職員室に、呼ばれてるのよね」

「あぁ、別にいーけど」


クラスメイトと適当に会話を交わしてから
ユリと並んでざわついた廊下を歩く。


大きな窓から見える景色は茶色ばかりで
もっと寒くなっても何でもいいから
雪が降らねーかなと願ってみたり。

冬の枯れ果てた色を
真っ白い氷の粒が
全部まとめて覆い尽くせばいいのに――。


ぼんやりとそんな思考を巡らせてたら
ユリが不振な顔をして俺を見上げた。


「どうしたの?リョウ
なんかあった?」

「ん、別に。
何で?」

「これといって理由はないけど
どこか雰囲気違うから」


――どいつもこいつも鋭すぎる。
それとも俺が顔に出やすいのか?

ったくどーしよーもねぇな。


「んー眠いからじゃねぇ?
つかお前が呼び出しとかめずらしーじゃん。
なんかしたの?イケナイ事」


にやけてそうからかうと
ユリは冷めた目つきで
緩く巻いた髪をかきあげた。

ふわりと甘い匂いが香る。


「リョウと同じにしないでよ。
理由はまだわからないけど
多分進路の事じゃないの?」

「進路?」

「そう、この前
進路希望出したからその件。
……その顔
あんたまだ出してないでしょ?
っていうか存在すら
忘れてましたって感じね」

「よくわかってんじゃん俺の事」

「やっばりね」


呆れ顔のユリに対し
しれっと答えて笑い合う。


進路希望か。

マジで忘れてたな。
ってか紙すらどっかいったわ
そんなもん。


……だってそんなの悩む余地も――。