ええっ!怖っ!
どんだけの執念だよ。


若干……いやかなりどん引きして
頬を引き攣らせながらも

「ほら違ったろ?」って顔して横を見たら
まだアキは不機嫌そうで
フンッって感じに視線を反らされた。


――全くもって気難しい。


「で?なんでいきなり電話なんか?
この前の約束ならちゃんと覚えてるよ。
DeFautのライブ明後日だろ?
そん時松さん紹介してやるから」

『違うの〜話したかったのは
その事じゃなくて……』

「じゃあ何だよ?」

『あのね――』


要領をえない会話に少しいらつきながら
無言で言葉を待ってると
携帯の向こうからひそかに
しゃくり上げる音が聞こえた。


「お前もしかして泣いてんの?」

『え!だ、だって……
うわーん!!!』


ってますます激しく泣き始めたギャル女。


何だよこいつ。
めんどくせえな大概。


「訳、わかんねぇんだけど
どーかしたの?」

『ひっく!
あのね、松さんが
……つーかDeFautがね……』

「え?DeFautがどーかしたのかよ?」


予想外の言葉にそう食いつくと
そいつは理性を失ったように
涙声でまくし立てた。


『だから、DeFautの人達
音楽やめるんだって!
松さんの歌、もう聴けなくなっちゃう!!
あたし、マジヤダ。
死ぬ〜〜!絶対死んじゃう!』

「は??嘘だろ!」


だけど俺の叫び声は届かず
携帯の向こうで大号泣するそいつ。


――松さんが音楽やめるとか……
全然聞いてないし
絶対ありえないだろそんなの。


こんな信憑性のない話
信じねえよと思いながらも

まだ泣き続けるそいつの声が
頭の中に鳴り響いてて

携帯を持つ手が
徐々に冷たくなっていくのが
自分でも痛いくらいにわかった。


――今日は厄日だ、絶対。