――――――


「あ、上着、忘れた……」


背中で閉じられた扉の音に
丸ごと掻き消される程の少量で
そう一人呟いた俺は

そのままスニーカーの踵を踏み潰し
まるで逃げるみたいにして
カズマの家の門の外に出た。


何もかもが剥き出しに感じる程
ズタズタに傷付けられた俺に容赦なく
襲い掛かるのは
キツイ寒さと深い夜の闇。

すぐ右側には帰る家があるのに
わざと視界に入れないようにして
足を左側に向けた。


――あれからいったい
どうやってカズマと別れたのか
すっぽり記憶が抜け落ちた状態で
コンクリートの上を進み

ポケットに突っ込んだ手が掴んだのは
二つ折りのメタリックブルーの携帯電話。

固まった親指に力を入れて
着信履歴の上から
二番目の番号をコールした。


――無機質に響く呼び出し音。


こんな時間に迷惑被りないけど、
もしかしたら
もう寝てるかもしれないけど、

まるで海底の底から酸素を求めるように
この音の後に続くだろう
あいつの声を願った。


……頼むから出ろよ、
って心の底から祈って唇を噛み締めた時


『……もしもし?リョウ?』

「…………」