ムキになって言い返すと
アキは鼻で笑って聞いてきた。


『ふーん例えば?』

「だから、貸してた俺の好きなバンドのCD
あいつが踏んで真っ二つに割れた時とか

二人で前日から並んで取った
人気バンドのライブのチケット
あいつに預けてたら紛失された時とか」

『……音楽バカ』


ぼそっと呟いたその言葉は
まるで耳に入らないで
更に調子に乗って羅列していく。


「それに合コンでカズマが気に入った女
俺がやり捨てした時とか

あっあと俺があいつより先に
女とやったときも
ズリーって意味もなく殴られたっけ。
それから……」


言い終わってからハタと気がついた。


うおっとやばい、余計な事を。
俺ってばまたやっちゃった?


いつの間にかアキからの相槌がなくなって
文句も非難も言わないのが
余計に恐怖を誘う。

思わず身震いして
マフラーに顎を埋めた。


「アキ?」

『…………』

「もしもーし、
出来れば今のは
さらっと聞き流して欲しいんだけど」

『…………』


当然返されたのは長い沈黙で
ゴクゴクゴクと
アキが再度何かを飲む音だけが
電話口から聞こえてきた。


「てかさっきから何飲んでんの?」

『……ミルクティー』

「いーなー俺も飲みたい。
今身も心も冷え切ってるから
あっためて欲しいんだけど。
今から行ってもいい?お前ん所」

『駄目にきまってんでしょ?
自販機でもさがせば』

「うわー寒!」


ヘラリと笑って
凍り付いた雰囲気を取り払うと
アキは心底呆れたように
深く長い吐息をはいた。