文句の変わりに舌打ちをぶつける俺。

すると更にキツイ言葉を
浴びせかけてくるだろうと
予想してたケンゴから漏れたのは
重苦しいため息で。


「どうした?」

「イヤ、別に何でもあらへん」

「そうは聞こえなかったけど?」


コイツがこんな態度をする事なんか
滅多にないし。

そうしてしつこく問い詰めると
少しの沈黙の後
ケンゴは諦めたように
ゆっくり息を吐き出した。


「……昨日あんな風に揉めたけど
いつもの痴話喧嘩的なんかと思って
俺あんまり深刻に
考えてなかってんけど……

でもカズマと話してから
よう分からんくなったわ」

「……ケンゴ」


何だよ、それ。


驚いて息を飲み
彼の顔を振り返った俺に気付く事なく
ケンゴは床を睨みながら言った。

俺を更に不安にからせた
滅多に聞けないコイツの弱音。


「あいつのあんな本音聞いて
何て言葉かけてやればええか
俺全然わからんかった。

ほんま情けないわ。
長いこと一緒に音楽やってきたのに
ほんまに……俺」


そう言って悔しそうに顔を歪ませて
空中を睨み付けるケンゴ。

コイツがこんなになるなんて
本当に今回はやばいかもしれない。


そう思ったら
目の前が途端に真っ暗になって

耳を塞ぎたくなる程
大音量のサイレンが渦巻いて
不協和音となって

俺の平常心を狂わせるように
エンドレスで頭の中に鳴り響いていた。