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背中の下の冷たく固い感触が
身体の内部にまで浸透してゆく。

見上げた天井はやけに高くて
無意識に掌をかざし
指の間からチラチラと茶色い壁を覗かせた。


今は何時何分かとか
ここはどこかとか
自分が誰かとか

全ての感情をシャットアウトして
その無機質な景色をただ眺め続ける。


それでも不意に思い出すある事実に
抜けられない罠にはまったみたいになって
息苦しさで吐き気が込み上げてきた。

深い呼吸をして
ゆっくりと瞼を閉じようとすると
額に何か固いものが落下した衝撃。


「痛って!」

「やっぱりここにおった」


額を押さえながら天井を睨み付けると
俺の頭上から呆れた眼差しを床にむける
一人の黒髪の男。

何となくここに
来るような予感がしてたけど
妙にバツが悪くて
その双方の瞳から逃げるように
勢いよく起き上がった。


「なんか用か?ケンゴ」

「あ?特別な用事がなきゃ
軽音部員が自分の部室きちゃ悪いんか?」

「別に」


嫌味な返しに顔がひきつる。

こいつの言ってることは最もだけど
普通じゃHRやってる時間に
部室には来ないだろうが。

文句をいってやりたい気もしたけど
更に10倍もの毒を吐かれそうな気がして
そのまま流す事にする。


ケンゴはさっきまで俺が寝転んでた
部室内にあるステージの段差に座り込むと

先程俺の額の上に落下させ
床を転がった紙パックのドリンクを拾い
苦笑いしながら差し出してきた。


「そんな顔すんなや。
やってお前が“なんか用か?”なんて
わかりきった事聞くからその仕返しや」


何も返事をせずにそれを受け取ると
ケンゴは更に追い撃ちをかけるように


「昨日あんな事があって
気持ちはわからんくないけど
こんなとこでじとーっと考えとっても
何も状況かわらへんぞ」

「わかってるよ」


隣の男にけだるい声を返し
ストローを刺してコーヒーを一口飲むと
その甘ったるい風味に少し顔をしかめた。