「別にアイツは何でもねーよ。
ただの友達だし」

「でも前付き合ってたんでしょ?
リョウたくさん女の子の友達いるけど
彼女は他の子とどっか違う気がする」

「それはただ付き合い長いからだろ?
今はお互い恋愛感情なんか何もねーし」


半年前についやっちゃったなんて
もちろん明かすつもりはない。

あの時は精神状態おかしくて
一時的にぐらついちまっただけだ、と思う。


つーかさっきからの
こいつの態度と言動……


「なぁアキ」

「何よ?」

「それってもしかしてヤキモチ?」


その細い肩を抱き寄せながらそう聞くと
空中の俺の腕が強い力で振り払われた。


「な!訳無いじゃん!
素行が悪いバンドメンバーなんて
嫌だから言っただけ」

「素行って人聞きわりいな。
俺かなりの優等生じゃん!」

「“最近”でしよ?
前科があるもんリョウの場合」

「前科って言葉悪すぎ。
それならお前はどうなんだよ。
ライブ後のあの夜
どうせユウキとやったんだろ?」

「…………」


言ってからやばいって気がついた。


売り言葉に買い言葉。


こんな事聞くつもりなんかなかったのに
……でもあの夜から
ずっと心に引っ掛かってて
つい興奮してぶつけてしまった。

取り返しは当然きかず
アキは少しだけ動揺を見せた後
また強い視線で俺を真っすぐに見る。


車内には重苦しい沈黙が広がって
バックミラーごしに見えたのは
心配そうなタクシーのオッサンの顔。


――しばらくしてやっと語られたのは


「してない」

「え?」

「だからあの夜
ユウキとは何もしてない」


嘘だろ?って言葉を飲み込んで
俺は無言でアキの顔を見つめ返した。


アルコールに侵され
まだ揺らぐ熱っぽい眼差し。


心臓の奥からだんだんと
その熱に満たされてく感覚がして
酒なんか飲んでねーのに
体中がクラクラと訳もなく震えた。