・・・とにかく、今ものすごい緊張している。

ここまで緊張したことが最近あっただろうか?

平和ボケというのは良くなかったわ。

いついかなる時に何が起こるか分からないからこそ

防災用具はしっかり準備をせねばならないというのに

こんなことでは準備の怠った女になってしまうわ。

き、緊張するなあたしの心臓ちゃん。

今、心臓が飛び跳ねたらチミはあたしの心臓じゃないぞ!

強靭な心臓に育ててきたのだから耐え抜くのだ。

そして、どうか勘違いで終わってくれ。

あたしには耐えられないよ。

ダンディーさんのキリッとした顔も好みではあるよ。

美しい顔が更に際立って見えるもの。

だけど、これはあたしを緊張させたいと言える。

大人は一歩先を行くとは言うけども彼はあたしが

緊張しているだなんて思ってはいないだろう。

周りにいる人たちも全然空気が先ほどと変わって

しまったことに気付くわけでもなく楽しげな会話が

耳に入っては抜けていく。

前から、不思議に思っていたことはたくさんあった。

それを聞く間も与えられなかった。

多分、言いたくないのか都合が悪いのだと思っていた。

だから、別に無理やり問おうとも思ってなかった。

何故、あたしを知っていたんだろうとか?

聞いちゃいけないような気がした。

実際、タイミングの問題だったのかもしれない。

呼吸が出来ているかすら分からなくなる次第だ。

ドキドキ心臓が加速していく中、ダンディーさん

の唇が微かに動いた。

それに一瞬目を瞑りそうになったが目をこじ開けて

一言一句聞き逃してしまわぬようにと真っ直ぐ見つめた。

威圧のある低い声が耳に届いたのはそれからすぐのことだった。

一瞬にして世界が変わったような気さえした。

ただただ、言葉を失って返すことが出来そうになかった。

喉がカラカラに渇いて砂漠化しそうなほどに枯れてた。

瞬きさえ出来なかったと思う。

分かるのはその言葉を発した後に自嘲気味に口角を

上げて漆黒の瞳を伏せるダンディーさんが寂しそうに

あたしの前に座っていた。

コーヒーのマグカップを見つめるようにして、視線を

逸らされた時は何故かあたしが寂しかった。