「あ、もう人通り多い所に出ちゃうな」



あ、ほんとだ。
細い道から一気に明るい道になる。


そうなる前に僕から手を離して
さっきまでの距離よりも離れて歩く。



ヒナは僕の反応を見て楽しんでいるからいい。でも、僕みたいに不純な想いがあるヤツは、こんな華やかな場所を想い人と歩いちゃいけない。




「なあ、弥生ちゃん。
今度の日曜日デートしようか」



「…はぃ?」



急なヒナの提案に間抜けな顔になる。
そして理解して冷静に答えた。



「嫌だ」ってね。




「なんでだよーバッシュー買いに行くだけだからさー!」



「違う人と行きなよ」



なんでよりにもよって僕?
ふざけるのも大概にしろって感じ。



「…だって弥生ちゃんと行きたい、から」



泣きそうな顔でヒナは僕を見る。
あ、この顔
あの時みたいだ……



《俺は弥生ちゃんを、そんな風に見たことない》




あ、だめだ。思い出すと止まらない。




《俺に触んな》



もう、やだ。あんな想い。



「あ、もう僕の家だーわざわざ送って頂きありがとうございましたー」



へらっと笑う。
そして、さよーならーと大きく手を振って走って逃げた。


思い出しちゃだめ。

期待しちゃだめ。

騙されちゃだめ。



そう何度も言い聞かせて
僕は家まで全力で走り勢いよくドアを開けて入り音を立てて閉めた。