「どうかしたの」 一階で母親が声を張 りあげた。その声が 階段をかけあがり、 放心状態になりかけ ていた牡丹の鼓膜を 弱く蹴った。 「なんでもなーい」 大声で返事して、再 度ひきだしをあけ る。 「やあ」 彼はひとつ欠伸し て、歯みがき粉の CMみたいに 笑った。