嗤う鏡

 

 信治は何を聞かれても、ただ鏡を新しくしただけだと答えた。
 嘘はついていない。姿見を買っただけだ。
 その姿見の中の自分が勝手に喋るなんて、言ったって信じないだろう。

 その日から、信治は人気者になった。
 会社では常に誰かに囲まれて、昼食のときは女性達が信治の横を巡って熾烈な争いを繰り広げる。
 呑み会にも誘われるようになった。会社の慰安旅行にも初めて参加した。

 もちろん、何度も告白されたが、それは全て断った。
 今まで自分を蔑んできた奴らを好きになることは出来なかったからだ。
 格好良くなったから付き合って、なんて都合のいい話だ。

 信治は人生を謳歌していた。
 みんなに持て囃されるのは、なんと気持ちの良いものだろうか。
 それも全て、あの姿見のコーディネートのお陰だった。