嗤う鏡

 

 家を出て、会社まで歩く。
 すると、行き交う人々がみんな信治を指さして何か言っている。
 その目はいつもの蔑んだ目ではなく、今まで信治がずっと憧れ続けた尊敬の目だった。


「あの人カッコよくない?」

「凄いカッコいいよね!」


 時折聞こえてくる声は、信治を誉めていた。

 生きていて、初めての体験だった。

 少し優越感に浸りながら会社へ急ぐ。
 会社に着いて、自分のデスクに座ると、一度も話したことがない後輩の女性に声をかけられた。


「席、間違ってませんか?」

「いや、小林だけど」

「え? うそっ!」


 女性が驚く。
 それに気付いてみんなが集まってくる。

「うそ、小林課長!?」

「全然違うじゃん!」


 信治の激変ぶりに、みんなが騒ぎ出した。
 どうやったんだ、何か雑誌でも見たのか、と色々な質問をされる。そんな質問をするのは専ら男性で、自分たちも格好良くなりたいと言う願望が見え見えだった。