***

あの時から変わらないその大人の余裕がムカつくのよ。

むぅ、と眉をしかめると目の前の彼が笑った。

「仏頂面でどうした?不細工」

「あなたの増えたシワの数を数えてたのよ」

「…………………」

「嘘だって、ごめんなさい」


彼は____先生は少なからず傷付いたらしい。それでも気にせず、先生お手製の冷製パスタを頬張った。バジルのソースも先生スペシャルだ。

実は付き合いはじめて一日過ぎただけだ。
出会ってから五年も月日は経過している。
先生は逃げ、私は追いかけた。随分長い鬼ごっこだ。



「それにしても先生が私のパンツに動揺しなかったことが不覚。魅力なかった?」

彼は苦笑するしかないのだろう。無理矢理笑っている。

「痴女だったな、お前」

「ちゃんと中に体操ズボン履いてたもん。あのまま押し倒させて既成事実作って交際迫る予定だったのに」

「まじで恐ろしいわ」

そう。彼は青ざめているけれど、本気だった。私は本気で鬼になっていた。でも、___まだ鬼ごっこは終わってない。

何度も抉った脛の傷跡にキスしてもらうまで、私は絶対、絶対別れない。

怪我をする度にハサミで同じ場所を切った、一生傷。



貴方が降伏するまで。
第二ラウンドは私への服従計画。




私だけ堕ちるなんて嫌なのよ。



「先生?」

「ん?」

「____なんでもない」



とりあえず今は幸せを噛み締めておこう。




fin