ばれないように笑顔を張り付けて、わざと高い声で却下した。


「…………いくら先輩の喉仏に魅了されてるっていってもー、直接、愛するなんて」


できませんよ。なんて言えなかった。

言葉なんて紡げなかった。



心臓が笑ってる。身体中に熱がこもる。



先程までは向かい合って喋っていたけれど、目をふせた。

こんなの、冗談なのだ質の悪い。

本気になる必要はない。



それでも、先輩は冗談の一言を口にするわけでなくむしろ、「やってみてよ」とか「はやく」と急かしてくる。


しかも厭らしさを感じない爽やかさはいつも通り。


「先輩、酔ってるでしょ」


「ん?酔ってないよ」 言われれば酔ってないと思えるほど顔は赤くなくどこかすっきりしている。

「だって草壁先輩は、そんな人じゃないもの」



草食系代表の草壁先輩。

いつもにこにこしてて、下卑た会話にも入らないストイックな性格からゼブラって呼ばれていた。

草食系動物の中でシマウマが選ばれた理由はボーダーやゼブラ模様の服が多いからである。



なのに、今日の飲み会。
隣に座った瞬間から違和感があった。
私はいつもより、ビールを飲んで。

ずっとその喉仏に触りたいってずっと思ってて。


ふ、と笑みを落とした______ぞくり、と何かが背中を這う。

口元を歪め、挑発するように草壁先輩は私に近づいた。

四方八方には死体。
逃げる元気も何もなかった。

そっと後ろに手をついて抵抗したけれど、それを咎めるように先輩は縮めるように私のお尻の横について。


半分馬乗りの状態で、ぐん、と伸びてきた顔は私の頬を通過して、耳を濡らす。


「噛みたそうな、触りたそうなそんな顔してた、から」


耳たぶに唇をつけられたまま《真実》の的を当てられ、背中が震えた。


食われる、そう思わせる声に。