「紗和ちゃん俺の喉仏見るよね、話すときも」

クスクス笑いながら、的確に痛いところを突いてくる。だがその声色は優しい。

人間観察が趣味って言ってただけあるなぁ、なんて呑気なことを考えていた。


喉仏って男性の象徴で、こくりって動く度に異性を匂わせるからか嫌でも意識してしまう。


つまりフェチ、そう喉仏フェチ。


マニアックなのかな、あんまり考えたことはない。


テニスサークル合宿中、宴会時。
隣に座った草壁先輩の喉仏は別格に素晴らしい。


周りはもはや死体と化していて、起きている人達はザル以外はみんな死にかけしかいなかった時。


私も草壁先輩もだいぶ、お酒が回っているせいか明け透けにフェチのことを語り合っていた。



「そうなんですよー!先輩の喉仏って私が見てきた喉仏で一番素敵で!」


「褒めてるの?それ」


「もちろんですよ!!」


一気にビールを煽る。
ダン、テーブルに叩きつけた。


「声の低さもドストライク、喉のフォルムもドストライク!!もう先輩のその部分愛しちゃってます」


普段なら絶対言わないだろう言葉を簡単に引き出すお酒。

宣言するように高らかに言うと先輩は、たしかに笑ったんだ。

普段とは違う、その顔で。一瞬ぎらついた瞳に私は気付かなかった。


「なら、愛してくれる?俺の喉仏」



いつもの柔らかく優しい笑顔のはずなのに、それはどこか追い詰めるよう。
酸素がうまく取り込めない。