自分のテリトリーから楽々抜けていく彼女を幾度となく恨んだことか。それでも最後の門までは到達していない。だから安心しきっていたのだ。


「痛い、楼、離せ」

声はいつも通り淡々としたものだ。
少し低い声は鼻にかかった高い声よりも全然落ち着く。

そうだとしても、細い手首を離すことをやめない。

やめてなんかやらない。

その無表情の裏には焦りと戸惑いがある。
俺だけがわかる、感情と表情のズレ。



「離したらアンタをどこかやるって知って離すバカがどこにいるんですか」



痛いくらい力を込めてやると、目を細め潤ませる。無意識なその行動にいつも甘い俺ではない。

荷造りをしている最中にノックもせずに入って直ぐ、ベッドに腰掛けてアルバムを見ている彼女を押し倒した。


今も、押し倒されたままの彼女は完全に女王の鎧を外していた。不意打ちの行動は予想外だったのか、彼女自身のもつ雰囲気だった。