彼は心なしか窶れ、疲れているようにみえる。どことなく老けたよう。それも突然別れを切り出したからか。いや、そこまで考えるのはおこがましい。


く、と突然笑い声が響いた。
ぞくり、と背中が震える。
今のは目の前の彼が発した声だった。



「馬鹿だよな、俺も」

ハハハ、といつもの笑顔で私に向けたのは狂気。額を押さえて、まだくつくつと笑う。

初めて見るその姿に息を飲む。

「遊ばれてたことも知らないで、信じてたとかさ」


コツンーーー。コツン。


「こんな糞みたいな女とは思わなかったよ」


近づいてくる男が怖かった。
全身から滲み出る得体の知れない黒が、目に見える。


逃げようとしたら、捕まった。
腕を取られ、遠慮なく引っ張った。