「だーーーいちゃん、なんで外国の人はここにちゅーするのー?」


そう言ってまんまるの頬っぺたを指差した。
外は寒い、だからか真っ赤な林檎のようになっていた。

そんな愛梨もまためちゃくちゃかわいい、と兄は思う。


公園は他にもチラホラと愛梨と同じ年くらいの子が遊んでいた。
それでも久々の対面となり、同級生には見向きもしない。それどころか「だいちゃん、だいちゃん」とすりよってくる。


砂場で山を貫通するトンネルをスコップで掘りながら、にこやかに答える。


「挨拶、だよ」

「あいさつーーー?」

不思議そうに顔をあげた。そりゃあそうだろう、日本には挨拶でキスするなんていう風習はない。そんなことしてみたら浮気だなんだの、の騒ぎである。

「ちゅーーーは好きな人とするんだよ」

あ、涙目。ぷくぷくとほっぺを膨らませる。

「でも、外国人だから」 そう曖昧に笑って見せても女の子の心に火をつけたらしい。

「外国人ならいーんだね」


むくり、と立ち上がって愛梨は叫んだ。
その姿は勇ましいが______ちょっと、待て。なにする気だ!?



公園の入り口の方に、愛梨は目を向けた。
その瞬間、走り出した。





「ジェーン君、こんにちわーーー!!」


「ん!?」


「な!!?」


揺れるプラチナが飛んできた愛梨を受け止めようとした。

だが、それは叶わぬ夢となる。後ろに倒れてしまった。

愛梨が頭をつかんでその小さな男の子の唇に自分のそれを重ねた。


小さな子供の接吻はかわいらしいものであるが____兄バカには関係なかった。
急いで駆け付けて、二人を引き離す。
ジェーンは顔が赤いまま、呆然としている。




「……………ジェーン君、どうしたの?真っ赤」

「愛梨の言うとおりだ、キスは好きな人とするもんだ」

「うん?」

「もうしちゃだめだぞ」





その後からか、ジェーンが家に通い詰めるようになった。すっかり愛梨に落とされたらしい。
それは粘着質に口説き続けたそうだ。

そして、ジェーンが愛梨を捕獲したと母から電話をもらった翌日、急いで家に帰った。
そうすれば、見慣れない革靴。


玄関で出迎えてくれたのはジェーンだった。


そして、青年となったあのときの少年は笑顔を向けた。




「あのとき義兄さんが愛梨を怒らせてなかったら今の俺達はなかったんです。ありがとうございます」


ピキ。お、義兄さんだとぅ!?


揺れるプラチナの髪と弧を描くサファイアのような目が酷薄に歪む。

真っ黒に染まった笑顔でもう一言。




「今は俺が押し倒す番なんで、では」









「愛梨ーーーー!!あの男とは別れろーーー!」


「え、だいちゃん!?」


end