それから、陽人は私の事を話し始めた。



私がまだ丸屋でバイトを始めたばかりの頃、お客様に注意され泣いてた事とか、ドシをして主任に叱れた事、仕事にも慣れお客様に誉められ泣いてた所も見られていたらしい。



陽人がいたことさえ知らなかった。



丸屋の本店は長男の直人が店長をしていて、大学生だった陽人は兄の仕事を手伝っていた。


いつも泣いてる私を遠くから見ていたようだ。


そんな私も食レジの仕事にも慣れて行ったんだよね。



何回か店長の直人さんに声を掛けられた事があったが、陽人の存在は全く分からなかった。



どうせ俺の存在は薄いだろうよと、陽人が拗ねる。


拗ねている陽人が可笑しくて笑ってしまった。


「俺は花梨と一緒に仕事がしたかった。花梨の事は直人が親父に感じがいい子がいると話してたから、俺も頼み安かった。丸屋には絶対必要な子だと話すと、親父も喜んで賛成してくれたんだ。本気だから、花梨を好きな気持ちも。」


嬉しいけど、素直に喜べなかった。


丸屋の仕事が嫌いな訳ではないけど、銀行へ勤める事が小さな時からの夢だったから。


大学側も銀行へ就職を勧めてくれ、松屋に決めるまで、本当に時間がかかった。


この選択が間違っていたとは思いたくないけどね。


陽人の気持ちを知って、気持ちが動揺している。